テクノシステム実績班長IoT時代の現場特化型
MESパッケージシステム

COLUMN実績班長のコラム

2023.10.16

危険予知とは?KYTラウンド法の進め方や事例集、失敗パターンと対策を徹底解説

職場や作業の中に潜む危険を予測して対策を考える「危険予知」。

さまざまな危険要因が存在し、重大な事故や怪我につながる恐れがある製造業の現場において、労災事故を防いで安全な職場環境を実現するために大切なのが、危険予知です。

本記事では、危険予知の目的やメリット、「KYT4ラウンド法」を用いた危険予知訓練の方法、失敗しないための対策などについて、事例をまじえて詳しく解説します。

危険予知とは

危険予知とは、職場や作業の中に潜む危険を予知・予測することです。

また、危険予知能力の向上を図るための活動・訓練のことを指し、KYK(危険・予知・活動)、KYT(危険・予知・トレーニング)と略されます。

危険予知の目的

危険予知の目的は、労働災害を防止することです。

危険予知訓練では、事故やケガにつながるヒューマンエラーやリスクテイキングを起こしやすい状態を把握し、具体的な対策を立てることで労働災害を防ぎます。

意味 具体例
ヒューマンエラー
  • 人為的ミス
  • 不注意による意図しない行動
  • 見間違い、聞き間違い、勘違い
  • ついうっかり、ぼんやり
リスクテイキング あえてリスクのある行動を選択してしまうこと
  • 慣れによる油断から決められた作業手順を逸脱する
  • 労力を削減しようと安全確認作業を怠る

危険予知のメリット

日常的に危険予知を行うことで、作業者一人ひとりが危険要因に注意を向け、「自分ごと」として主体的に安全を意識しながら行動できるようになります。

また、定期的なミーティングで全員の発言が活発化し、作業中にも互いに注意し合えるようになるなど、職場のチームワークが向上するというメリットもあります。

危険要因への対策を考える過程で問題解決能力が鍛えられ、ミーティングの中でもリーダーシップが生まれるため、人材育成の面でも効果を期待できるでしょう。

KYT4ラウンド法での進め方

危険予知訓練の標準的な手法として「KYT4ラウンド法」が挙げられます。

KYT4ラウンド法では、5~6人程度のチームで話し合いながら作業における危険要因を洗い出し、安全に作業するための行動目標を定めるまでの過程を、1ラウンドから4ラウンドまでのステップに分けて進めます。

チームを編成したら、事前に司会進行を務めるリーダーと書記を決めておきます。リーダーは、開始前に、危険予知能力を高めて労働災害を防止するというミーティングの目的を明確にし、メンバーに積極的な発言を促すことが大切です。

ここでは、KYT4ラウンド法におけるラウンドごとの進め方を詳しく解説します。「脚立を使って窓拭きをする」という作業を例に、それぞれ具体的に見ていきましょう。

ラウンド 項目 手順
1R 現状把握 危険要因とその要因が引き起こす現象を想定する
2R 本質追求 重要な危険を把握し、危険のポイントを絞り込む
3R 対策樹立 危険ポイントに対する対策案を出し合う
4R 目標設定 重点実施項目を絞り込み、行動目標を設定する

1R:どんな危険が潜んでいるか(現状把握)

1Rでは、KYT訓練用のイラストシートや実際の作業画像などをもとに、どのような危険が潜んでいるかをチームで話し合います。また、その危険要因によってどのような現象が引き起こされるかを想定していきます。

このとき、実際に事故が起こるかどうかではなく、少しでも危険だと思われることを列挙し、メンバーから出た意見をすべて記録しておくことがポイントです。

【例】
  • 力を入れて雑巾をもみ洗いしたので、汚水がはねて目に入る
  • 離れた窓を拭こうと身を乗り出したので、脚立がぐらつきよろけて落ちる
  • 脚立から飛び降りたので、着地したときによろけて足をひねる
  • 脚立から降りたあと、拭き具合を見ながら後ずさりしたので、バケツに足をひっかけて転ぶ

2R:これが危険のポイント(本質追求)

2Rでは、1Rで挙げられた意見の中から重要と思われる項目に赤丸をつけていきます。次に、その中から最も危険だと考えられる要因に赤色で◎の印をつけてアンダーラインを引きます。

どの項目が重要かを考える際にメンバー間で意見が割れた場合は、全員が納得いくまで話し合ったうえで答えを導き出すことが大切です。

最重要項目が決まったら、「~なので~になる ヨシ!」と指差し唱和をして確認します。

この行動には、危険要因と行動目標を指差し呼称でインプットすることで、作業中でも無意識に安全確認を実施できるようにするという狙いがあります。

【例】
話し合いの結果「離れた窓を拭こうと身を乗り出したので、脚立がぐらつきよろけて落ちる」を危険のポイントに決定
→「離れた窓を拭こうと身を乗り出したので、脚立がぐらつきよろけて落ちる ヨシ!」

3R:あなたならどうする(対策樹立)

3Rでは、2Rで決定した危険のポイントに対する具体的な対策について、メンバー全員の意見を出し合います。

リーダーが「あなたならどうする?」と一人ひとりに問いかけ、書記は出た意見を記録していきます。

【例】
  • 脚立を正面に置く
  • 脚立の反対側に立つ
  • 脚立をこまめに動かす

4R:私たちはこうする(目標設定)

3Rで挙げられた対策をもとに全員で話し合い、メンバーの合意を得て重点実施項目を決めます。重点実施項目には赤色で※の印をつけ、この重点実施項目を実行するための行動目標を設定します。

チームの行動目標が決まったら、「~するときは~を〜して〜しよう ヨシ!」と、指差し唱和を行って確認します。

【例】
「脚立をこまめに動かす」を重点実施項目に決定
→「脚立を使って窓拭きをするときは脚立をこまめに動かそう ヨシ!」

危険予知の事例

製造業でよくある作業における危険と対策について、事例をもとに解説します。

工場内の清掃

工場の種類や作業場所によって起こり得る事故の種類は異なるものの、工場内の作業にはさまざまな危険が潜んでいます。

例えば、化学工場内における排水処理設備汚泥貯水槽の清掃作業では、作業中に発生した硫化水素により作業者が硫化水素中毒となった事故が報告されています。

この作業では、開始前に作業環境中の酸素濃度および硫化水素濃度の計測を行ったところ、問題のない範囲だったためエアラインマスクを使用せず、換気もせずに作業を行っていたとのことです。

このような環境での清掃作業においては、以下のような対策が求められます。

  • 酸素欠乏危険場所の作業では、必ず第2種酸素欠乏危険作業主任者が立ち会い、適切な災害防止対策を作業者に徹底させる
  • 作業環境が適切な酸素濃度等になるよう、定期的な換気と測定を行う
  • 作業員に空気呼吸器等の適切な保護具を装着させる

アングル材などの溶接

製缶工場での交流アーク溶接機を用いたアングル材の溶接作業中においては、作業者が亜鉛中毒となった事故が報告されています。

この事故では、長時間しゃがみ込むような姿勢で溶接作業を行っていた作業者が、作業を終えて帰宅したあと身体の異常を訴え、亜鉛中毒と診断されました。

作業環境において換気扇が十分に稼働していなかったこと、作業者に適切な呼吸用保護具を着用させていなかったこと、安全衛生を確保するための作業手順が作成されていなかったことなどが事故の原因と考えられます。

こうした溶接作業では、以下のような対策を講じる必要があります。

  • 全体換気装置による換気、局所的な換気の両方を行う
  • 換気機能が十分でない屋内で作業を行う際は、作業員に呼吸用保護具を使用させる
  • 換気方法、呼吸用保護具の着用など安全を確保するための作業手順を作成し、周知徹底する
  • 作業を管理する立場の者が、換気・作業方法・保護具の着用状況などについて確認する

フォークリフトでの運搬

フォークリフトでの運搬には、次のような危険が想定されます。

  • 転倒事故:フォークリフトがバランスを崩して横転し、作業員が投げ出される
  • 転落・墜落事故:運転者の操作ミスにより高所から転落した荷物が下にいた作業員に当たる
  • 作業員が巻き込まれる事故:目の前の荷物に気を取られ、近くにいた作業員を挟んでしまう

こうした事故を防ぐためには、以下のような対策を徹底することが大切です。

  • 安全な乗り方・安全な荷物の積み方を徹底する
  • 指差し・呼称確認を徹底し、安全確認を怠らないようにする
  • フォークリフトと人の作業場所を分け、フォークリフトの作業範囲に立ち入らないようにする

トラック荷台からの荷卸し

トラック荷台からの荷卸しでは、次のような墜落事故が起こりやすくなります。

  • 不慮の墜落事故:荷物の重さでバランスを崩し荷台から転落する
  • 悪天候による墜落事故:作業中の突風や豪雨により、足を滑らせて荷台から転落する
  • 見落としによる墜落事故:複数名での作業中、死角の作業員に気づかず転落させてしまう

これらの墜落事故を防ぐためには、作業場に昇降設備や安全ネットを設置する、トラックに安全帯の取付設備を設置するといった対策が有効です。

危険予知訓練の失敗パターンと対策

危険予知訓練を取り入れても、以下のようにうまくいかないケースもあります。

  1. 何のために行うか理解されていない
  2. テーマの選定が非現実的である
  3. 活動の途中でマンネリ化する

ここでは、3つの失敗例とその対策について解説します。

何のために行うか理解されていない

危険予知訓練の目的は労働災害を防ぐこと、つまり自分やチームの仲間が怪我をしないことです。しかし、その目的を理解できていないと「自分には関係ないだろう」と他人ごとになってしまうため、危険予知訓練の効果が下がってしまいます。

特に配属されたばかりの新しい従業員は、すぐには目的を理解できず、なかなか自分の意見も出てこないかもしれません。

新しいメンバーを含めチーム全員に危険予知訓練の目的を正しく理解してもらうためには、ミーティングを始める前に目的や意義を明確に説明することが重要です。

最初は理解できなかったメンバーも、定期的に危険予知訓練に触れ、事故の事例を知っていくうちに危険予知訓練の目的を理解し、解決策を考えられるようになっていくでしょう。

テーマの選定が非現実的である

危険予知訓練では、イラストシートや実際の作業画像を用いて危険要因の検討をします。その際、取り上げるテーマが実際の職場環境とかけ離れていると、実践に役立つトレーニングではなくなってしまい、訓練本来の目的を達成しづらくなってしまいます。

危険予知訓練で見出した危険要因や行動目標を実際の作業に生かして事故を防ぐためには、よりリアリティのある作業シーンを選ぶことが大切です。

特定のテーマに縛られず、日頃のヒヤリハットなど職場環境から得た情報をもとにテーマを設定すると、危険予知訓練の効果がより高まるでしょう。

活動の途中でマンネリ化する

危険予知訓練は、KYT4ラウンド法などの決まった型を用いて定期的に繰り返し行われます。そのため、だんだんと新鮮味がなくなりマンネリ化してしまう場合があるでしょう。

形だけの訓練になってしまうと、「どうせ意味ない」「とりあえずやっておくか」とメンバーのモチベーションが下がってしまうこともあるかもしれません。

マンネリ化を解消し成果の伴った訓練とするためには、毎回進行役や書記を変更する、意見を出す順番を変えてみるといった小さな変化を加えることが効果的です。活動の時間帯や場所を変える、チームのメンバー編成を変えるなど、全体の雰囲気を変える工夫をしてみましょう。

まとめ

危険予知訓練は、職場での事故やケガを防ぎ、従業員が安全に働くために重要な活動です。定期的な危険予知訓練の実施により従業員一人ひとりの安全に対する意識が高まり、チームワークの醸成や問題解決能力の向上も期待できます。

危険予知訓練の効果を高めるためには、訓練の目的や意義をメンバー全員がしっかり理解した状態で、実際の職場環境により近い作業シーンを検討することが大切です。

「実績班長」では、膨大な作業データを分析し、より危険度の高いポイントを抽出して危険予知の精度を高めたり、IoTを駆使して人の意識だけでは防ぎきれない危険を減らしたりすることが可能です。労災事故を減らし、より安全な職場環境を実現するために「実績班長」を役立ててみてはいかがでしょうか。

ご相談無料 お気軽に
お問い合わせください