業務効率化や生産性を向上させる方法を探す中で、「多能工化」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。多能工化とは、具体的にどのような内容なのでしょか。
本記事では、多能工化の意味や目的、そして具体的なメリット・デメリットについて解説します。また、正しい進め方について5つのステップ形式で紹介します。多能工化に成功した事例も紹介するので、将来的に導入する際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
目次
多能工化とは?意味や読み方を解説
「多能工化」とは、一人の従業員が複数の業務を担当できるようにするための戦略で、「たのうこうか」と読みます。
教育や設備の増設などを通じて、特定の従業員の負担を軽減し、業務を円滑に進めることが可能となります。この「多能工化」は、「マルチスキル化」や「マルチタスク化」とも言い換えられます。
「多能工」の反対の意味として「単能工」がありますが、これらの違いは下表のとおりです。
多能工 | 複数の業務をこなせるゼネラリスト |
---|---|
単能工 | 特定の業務に特化しているスペシャリスト |
多能工化は、業務効率化や技術継承といった製造業が抱える課題解決に対する有効な手段です。
多能工化の先駆けとして、トヨタ自動車(旧・トヨタ自動車工業)が挙げられます。
製造業の現場では、少子高齢化による労働力不足や効率化が求められており、多能工化の重要性は今後ますます高まると予想されます。
多能工化の目的
多能工化の主な目的は、生産性の向上、業務フローの柔軟性、人材育成と訓練、労働環境の改善を通じた業務の平準化です。業務の平準化とは、1人ひとりの業務負荷に偏りをなくすことを指します。
特定の従業員に負荷がかかりすぎたり、従業員間で不公平感が生じたり、業務にムラやムダが発生し生産性が落ちるといった問題を防ぐためにも、多能工化は必要です。
多能工化によって次のフローで業務の平準化がなされます。
- 1人の従業員が複数の業務をこなせるようになる
- 業務フローを柔軟に設定できる
- 業務量に合わせた適正人数を配置できる
多能工化は、生産性の向上によって企業の競争力を高め、持続可能な成長を支える重要な要素なのです。
多能工化4つのメリット
多能工化の目的が理解できたところで、具体的な導入メリットを4つに分けて詳しく見ていきましょう。
- 業務フローが改善できる
- 生産性が向上する
- 働き方改革につながる
- マルチスキルな人材育成ができる
それぞれのポイントも詳しく解説します。
業務フローが改善できる
多能工化を導入することで、業務フローの改善と組織の変化への対応力強化を目指せるというメリットがあります。
従業員が複数のスキルを持つことで、業務プロセスが可視化され、適切な人員配置が可能となり、業務フロー改善につながります。
例えば、単能工のみの組織では、1つの工程が特定の従業員に依存した状態となり、組織全体の業務が滞ってしまいます。
一方、多能工化により特定の工程をこなせる従業員が増えると、その工程の作業量が増えても複数人で対応可能となります。
したがって、多能工化を導入し、業務フローを改善することは、組織の変化への対応力強化をもたらすのです。
生産性が向上する
多能工化を導入することで、生産性が向上するというメリットがあります。
多能工化により従業員が携われる業務が単純に増えるため、人員配置が柔軟にでき、業務が効率化につながります。製造過程全体を通して均一な業務遂行が可能になります。
例えば、多能工化しない場合、特定の業務が増えた際にはその担当者に負担が集中し、過剰な負荷や残業が発生する可能性があります。しかし、多能工化を導入することで、特定の業務へ人員を集中させることも可能になり、業務が滞るのを防げます。
多能工化は、従業員あたりのパフォーマンスを高めることとなり、組織全体の生産性を向上させる重要な要員となります。
働き方改革につながる
多能工化により生産性が上がることで、従業員は意欲やモチベーションを高め、働き方改革にも寄与するというメリットがあります。
多能工化が働き方改革につながるプロセスは以下の通りです。
- 多能工化により従業員が携る業務範囲が広がる
- 労働生産性が向上する
- 労働時間を抑制し、ライフワークバランスを整えることが可能になる
もし、多能工化が導入されていない場合、従業員の業務は単調な作業になりがちです。単純作業の繰り返しは、生産性の低下とともに長時間労働にもつながる可能性があります。
引用元:内閣府:長時間労働是正と柔軟な働き方の導入による生産性向上
多能工化は労働時間抑制や休暇の取りやすさに直結するため、従業員のやりがいや働き甲斐が向上します。
多能工化により従業員のモチベーションを向上させることができれば、組織全体の継続的な成長にも直結します。
マルチスキルな人材育成ができる
多能工化を目指した人材育成は、企業と従業員双方にメリットをもたらします。企業は、多能工化を通じてマルチスキルな人材を育成することで、組織全体のパフォーマンスを向上させ、継続的な業績の伸びに直結させることができます。
多能工化が導入された職場では、従業員が広範囲のスキルと経験を積むことが可能となり、キャリア形成、昇給、出世の機会を増やし、離職率を下げる効果もあります。また、学ぶ機会が多い職場は、求職者にとって魅力的な環境ととらえられ、優秀な人材を確保しやすくなります。
さらに、多能工化は長期的な観点から見て、企業全体のレジリエンス強化にもつながります。多様なスキルを持つ従業員を育成することで、組織は変化や困難に対応しやすくなり、持続的な成長を支えることができます。
このように、マルチスキルな人材育成は、企業と従業員双方にとって、多能工化がもたらす長期的なメリットとなるのです。
多能工化にもデメリットがある
多能工化は企業にとってメリットばかりとは限りません。以下のデメリットがあることは考慮しましょう。
- 人材育成が必要
- 設備の充実が必須
- 給与制度などの整備が必要
1つずつ解説していきます。
人材育成が必要
多能工化は、人材育成に時間とリソースを必要とするというデメリットがあります。従業員が複数のスキルを習得するため、育成する側と育成される側のどちらにも負担がかかります。
例えば、単能工の場合、1つの仕事を教えるだけで即戦力になりますが、多能工化では複数の仕事を覚える必要があります。そのため、研修やOJTなどを組み合わせておこなう人材育成には時間がかかり、教育者のリソースもとられます。
このように、人材育成は組織の人材戦略や教育体制の設計に影響を与えます。多能工化を進める際は、教育コストも考慮する必要があり、従業員の特性に見合った業務から教育するなどの工夫が求められます。
設備投資のコストがかかる
多能工化のデメリットとして、人材育成に伴う設備の増設などに投資が必要となる点が挙げられます。
単能工の場合、特定の業務をおこなう人数が少ないため、必要な設備も少なくて済みます。しかし、多能工化では、多くの従業員がさまざまな業務を担当するため、それぞれの業務に必要な設備を増やす必要が出てくることがあります。
これらの設備やツールの購入だけでなく、維持にも費用がかかります。
そのため、設備やツールのコストがかからない業務から多能工化を進め、経済的な負担をかけないようにする必要があります。
給与制度などの整備が必要
多能工化を進める際には、従来の給与制度を見直し、多能工の業務習得状況に応じた給与体系を導入する必要があるのもデメリットです。
多能工化により社員の業務範囲が広がるため、それに合わせた給与体系の改定をしなければ、従業員の業務負担が増えるだけで、不満の元となるかもしれません。最悪の場合、離職率が上がってしまう可能性もあります。
多能工化を推進するにあたり、給与制度の再評価と、それが従業員の満足度にどのように影響するかを、事前に慎重に考慮することが重要です。
多能工化の正しい進め方
多能工化のメリット・デメリットを踏まえた上で、多能工化をどのように進めるのがいいのでしょうか。ここでは、多能工化の正しい進め方を5つのステップに分けて段階的に解説していきます。
- 多能工化の目的を明確にする
- 多能工化する対象業務を洗い出す
- 対象業務を細分化し、スキルマップを作成する
- スキルマップを元に従業員の習得状況を評価し、教育・訓練する
- 多能工化の効果検証と改善をおこなう
それでは、順番に見ていきましょう。
①多能工化の目的を明確にする
先に、多能工化導入の目的は、企業の生産性向上、業務フローの柔軟性、人材育成と訓練、労働環境の改善と解説しました。
これらにおける、目的をそれぞれ明確化するポイントは3つあります。
- いつまでに
- 何が
- どうなっている状態か
これらは、まず目指すべき道標となり、多能工化を推進する際の指針となります。
多能工化を進めることで、従業員が複数の業務をこなせるようになり、業務フローを柔軟に設定でき、業務量に応じた適正な人員配置が可能になります。
②多能工化する対象業務を洗い出す
多能工化の次のステップは、業務のインベントリー化、すなわち対象業務の洗い出しです。これは、どの業務を多能工として学ぶべきかを明らかにし、その優先順位を決定するための基礎となります。
業務の洗い出しには、業務棚卸一覧表を作成し、それを順次埋めていく方法が効果的です。
業務棚卸表 | |||
---|---|---|---|
大分類 | 小分類 | 作業時間 | 発生頻度 |
発注 | 発注書作成 | 30分 | 毎週金曜日 |
発注書提出 | 15分 | 毎週金曜日 | |
見積処理 | 15分 | 毎週金曜日 | |
顧客対応 | クレーム対応 | 不定期 | 不定期 |
営業事務 | 請求書作成 | 30分 | 毎月21日 |
請求書提出 | 15分 | 毎月23日 |
対象業務の選定に困った場合、一旦全業務をリスト化し、その後で不要と判断した業務を削除するというアプローチが推奨されます。多能工化する業務の優先順位を決定し、それらを多能工化の対象とすることで、業務効率化が可能となります。
さらに、多能工化の目的と必要性については、従業員とのコミュニケーションを通じて共有することが重要です。これらの手順を踏むことで、多能工化はより効果的かつ効率的に進展します。
③対象業務を細分化し、スキルマップを作成する
続いてスキルマップを作成します。スキルマップとは、従業員の持っているスキルを可視化した表のことを指します。スキルマップを作成することで、「誰が」「どのスキルを持っていて」「どのスキルを強化・補強すべきか」を把握できます。
スキル | 職員 | 評価 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
大項目 | 小項目 | A | B | C | D | リスク |
加工 | プレス | ● | ◯ | △ | ◯ | |
溶接 | ◯ | ◎ | ◯ | |||
塗装 | ◎ | × |
- ※レベル
- ●:教えられる
◎:一人でできる
◯:時間はかかるが一人でできる
△:補助が必要
このように、個人のスキルレベルや特性も考慮しつつ、方向性や計画を効率よく決定しましょう。
④スキルマップを元に従業員の習得状況を評価し、教育・訓練する
スキルマップが完成した後の教育・訓練フェーズは、多能工化における効率的な技術伝承と人材育成にとってとても重要です。このフェーズで従業員の習得状況の把握と適正な評価がなされることが、その後の教育や訓練の質に直結します。
以下の要素を確認し、教育・訓練のプロセスを最適化することが可能となります。
- 各従業員の評価をおこなう頻度を決定する
- 評価基準やポイントを明確にしておく
- 評価後のフォローアップ体制を整えておく
また、従業員ごとに無理のない育成計画を立て、進捗を可視化しておきます。通常業務と並行して教育を受ける従業員のモチベーションを維持する工夫をしていきましょう。
したがって、スキルマップが完成した後の教育・訓練フェーズは、多能工化における効率的な技術伝承と人材育成にとって重要であり、その適切な管理と評価が求められます。
⑤多能工化の効果検証と改善をおこなう
多能工化の定着を目指す教育・訓練を実施ながら、定期的に効果検証の場を設けましょう。スキルマップや現場での従業員の行動監察などを元に進捗確認をすることで、継続的な改善が図れます。
効果検証は、可能な限り客観的な指標を用いておこなうことが望ましいです。主観的なバイアスが排除されることで、より正確な評価が可能になります。
また、従業員の負担やモチベーションにも配慮して、多能工化を定着するための改善を進めていきましょう。
多能工化の成功事例
多能工化によって成功した、以下2つの事例を紹介します。
- 製造業の工場の事例:トヨタ自動車
- 事務職の事例:星野リゾート
1つずつみていきましょう。
製造業の工場の事例:トヨタ自動車
まず、日本で最初に製造業に多能工化を導入し、成功したトヨタ自動車の事例をご紹介します。
多能工導入前 |
|
---|---|
多能工導入の経緯 |
|
多能工導入後 |
|
トヨタ自動車の生産ラインは、多能工化で以下のように変化しました。
- 従業員が自分の仕事が少ない時に、忙しいラインに入って手伝えるようになった
- 従業員による品質のバラつきがなくなった
- 製造現場のムダを排除し、合理的な生産体制を実現した
多能工化をきっかけに、合理的なトヨタ生産方式が生まれ、トヨタ自動車は業績向上に成功しました。このことは、多能工化が生産性向上と組織のパフォーマンス改善に寄与する良い例と言えます。
事務職の事例:星野リゾート
次は事務職の多能工化成功事例として、星野リゾートの多能工化導入前と導入後のまとめです。
多能工導入前 |
|
---|---|
多能工導入のきっかけ |
|
多能工導入後 |
|
星野リゾートは多能工化の導入で以下のように体制が変化しました。
- スタッフは空いた時間に他の仕事をすることで、効率的に業務をこなすようになった
- どのスタッフも接客する機会をもつようになった
- お客様の声を聞くようになり、よりお客様目線でサービスを提供するようになった
結果として、星野リゾートは高い顧客満足度を維持し続けています。
多能工化を実現するなら「実績班長」がおすすめ
製造業の多能工化において、人と機械の動きを可視化し、管理しやすくするには、デジタルツールの導入も検討するといいでしょう。
「実績班長」を活用することで、現場の業務をデータによって可視化でき、管理者はリアルタイムに現場状況が見えるようになります。
実績班長が多能工化の推進にもたらすメリットは次の通りです。
- 多能工化が進まない課題を解決
- データ収集で教育コストを削減
- 正しい多能工化を推進
それぞれ解説していきます。
多能工化が進まない課題を解決
実績班長を導入することで、従業員個々の仕事での課題を見える化できます。
そのため、次のステップで多能工化が進められるのです。
- 熟練者のノウハウも、データで可視化される
- 従業員全員で最新ノウハウを共有できる
- 皆が同じものをつくれるようになる
- 品質や工程が安定し、組織価値が高まる
多能工化の難しさの1つである、属人化したスキルの継承や、スキルセットのバラつきにも対応できます。
データ収集で教育コストを削減
実績班長を導入すると、従業員の管理が楽になります。結果として、次のステップで教育コストも減らせるでしょう。
- 属人化していた仕事をデータ化、マニュアル化できる
- 経験や勘、感覚がものをいった仕事が誰でもできる
- 従業員の習得コストや人材教育などの人的リソースが省ける
多能工化の悩みの種は、教育者の負担が大きいことですが、実績班長を使うことが解決につながります。
まとめ
本記事では、多能工化の概要と、多能工化によって得られるメリットやデメリット、正しい進め方について解説してきました。
多能工化を導入したいけど何から検討していいか分からないという声も耳にします。確かに自社のリソースだけで多能工化をするには、時間と労力がかかるのが現実です。
しかし、そうした時間と労力を肩代わりしてくれるのが、実績班長です。
将来的に自社が激しい生存競争の中でも、企業の足腰を強靭にしておきたいとお考えなら、実績班長の導入を検討し、業務効率化と生産性向上に役立ててみてはいかがでしょうか。