製造業では、少子高齢化による労働人口の減少や、世界各国との競争激化による問題が以前より取り沙汰されています。
そのような中、注目を集めているのがMES(製造実行システム)です。MESの導入によって製造現場の改善が図られ、さまざまな問題に対処できるようになります。
この記事では、MESとはどのようなシステムか、MESを導入するメリットは何かを詳細に説明しています。
合わせて導入事例も紹介していますので、システム化によって現場を改善したいとお考えの担当者の方は、ぜひ最後までご一読頂き検討してみてください。
目次
MES(製造実行システム)とは
MES(Manufacturing Execution System、製造実行システム)とは、製造工程の把握・管理、作業者への指示・支援をおこなうシステムです。製造現場が業務範囲となる「工程管理システム」に近い内容であり、いかに作業者・管理者双方の負担を減らして合理化を図るかが課題となります。
MESには11種類の機能があり、その中から必要な機能を組み合わせて活用するのが一般的です。
MESの11種類の機能
アメリカにあるMES推進団体であるMESAによって、MESの機能は11項目と定義されています。
- 【MESの機能】
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- 作業のスケジューリング:生産計画に基づいた詳細なスケジュールを立案する
- 生産資源の配分と監視:設備・工具・人材といった生産資源の情報を把握し管理する
- 作業の手配・製造指示:オーダー・ロット・ジョブなどの作業管理単位で、生産の作業手配や製造指示をする
- 実績分析:過去の履歴・生産計画と比較して分析する
- 保全管理:設備・機器の定期保全や予防保全の計画を作成し、実行・管理する
- 工程管理:生産状況を監視し、作業者の判断や異常時の対応を支援する
- 品質管理:製品の品質管理データを収集・分析して、適正な品質を保持する
- データ収集:生産に関わる進捗状況のデータを収集して分析する
- 製品の追跡・生産体系の管理:仕掛品の追跡と次の工程を把握する
- 作業者管理:作業者の作業状況を管理し、負荷状況を考慮して最適な作業割り当てをする
- 文書管理:作業に必要となる仕様書・指示書・図面・配合表・マニュアルなどを管理する
MESの必要性
MESの導入が注目される理由として、次があげられます。
- 少子高齢化による人材不足
少子高齢化による労働人口の減少で将来的な人材不足が想定されるため、熟練者に頼った労働では将来的にスキル不足となる懸念がある - 多様なニーズへの順応
消費者のニーズが多様化しており、大量生産から少量多品種生産へのシフトを視野に入れなければならない - 他国との競争力強化
世界各国のIT化の流れによって、これまで優位に立っていた日本の製造業が品質面だけで対応するのが難しくなっている
これらすべてを人の手だけで実行するのは、非常に困難であると言わざるを得ません。MESを製造現場でうまく活用することで、効率的な生産体制を作り上げられます。
ERPとの違い
ERP(Enterprise Resources Planning、統合基幹業務システム)は、企業の会計や生産管理に関わるシステムを包括的に管理するものです。MESが生産現場のためのシステムであるのに対し、ERPは人・物・資金・情報を一元管理するものとなります。
ERPとの違いについては、次のとおりです。
MES | ERP | |
---|---|---|
目的 | 製造現場の人材・設備・資源の管理 | 経営における人・物・資金・情報の管理 |
特化している工程 | 製造現場の管理 | 企業における情報の一元管理 |
機能 | 仕様・文書管理 工程計画(作業スケジューリング)管理 製造プロセス管理 実績データ収集 工程・製品の品質管理 現場在庫管理 生産追跡管理 設備の保全・保守 |
製品構成管理・設計変更管理 販売管理 生産計画管理 購買管理 在庫管理 製造指示管理 製造実績管理 製造原価管理 財務会計 経営管理 |
ERPのほうが幅広い業務に対応しており、MESは製造現場に特化していることがわかります。MESとERPを連携することで、それぞれのメリットが最大限に発揮できるのです。
ここから、製造業においてMESを導入するメリットの一部を紹介していきます。
MES導入のメリット1:業務を効率化できる
MESの導入によって、製造業務を効率化できます。
- 【MESの導入で業務を効率化できる理由】
-
- 手書き日報から脱却できる
- ムダが排除できる
- コスト削減できる
- ミス防止で製造品質を担保できる
それぞれの項目について、詳しく説明します。
手書き日報から脱却できる
MESの活用によって、手書き日報による紙運用から脱却でき、生産状況を素早く正確に場所を問わず把握できるようになります。MESを利用することで、製造現場から次のようなさまざまなデータがリアルタイムで記録されます。
- 作業進捗
- 作業者
- 使用材料
- 在庫数
- 着完時間
- 中断時間
- 設備稼働状況
- チョコ停時間 など
手書きによるヒューマンエラーも防ぐことが出来るので、正確なデータ収集が可能です。結果としてデータに基づいた合理的な判断ができるようになり、現場の問題解決や経営の意思決定スピードの向上へつなげられます。
ムダが排除できる
MESの活用によって、業務上のムダなコストや労働を排除できるメリットがあります。
MESによって日々の製造実績をデジタル化・データ化し、保存・蓄積していくことが可能です。蓄積したデータを分析することで、生産性の低い工程(ボトルネック工程)を発見したり、不良品の発生傾向をつかんで非効率な生産を未然に防いだりできます。
株式会社プラセスでは、金型の命数をデータ化することで次回のメンテナンス時期を把握し、管理できるようになったという事例があります。MESでデータ収集して分析することで、生産上のムダがなくなった一例といえるでしょう。
コスト削減できる
コスト削減の実現にも、MESの導入は効果的です。MESを使用することで、製造に必要な材料・時間・人員について、データを基に算出して業務に必要なコストの最適化ができます。これにより、製造に必要なリソースを適切に配分でき、時間外労働や余剰在庫の発生を防げるのです。
「生産時の不良品発生もデータ収集・分析により抑えられる」「設備・機器のトラブルも未然に発見できる」といったことも、コスト削減の要因となります。
ミスの防止で製造品質を担保できる
MESの利用によってヒューマンエラーによるミスが防止でき、製造品質の担保が可能です。
MESによって、正確な作業指示をリアルタイムで作業者に通知できるようになります。作業中に優先対応の必要なタスクが発生した場合でも、現場端末を通してスムーズかつ正確に作業者へ伝えられます。
また、材料の投入忘れ防止機能をつけておけば、作業プロセスを細かく制御するのも可能です。たとえば、食品・化学・医薬系などの製造プロセスが厳しく定められている環境でも、順番通りに製造でき、ミスを防止することができます。
ミスによる生産ロスやコンタミネーションの事故を防ぐ意味でも、MESの導入は非常に効果的だといえるでしょう。
MES導入のメリット2:関係部署の連携がスムーズ
2つめのメリットとして、関係部署の連携がスムーズにとれることがあげられます。
- 【MESの導入で関係部署の連携がスムーズになる理由】
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- トレーサビリティを実現できる
- 設計部門と連携して製品設計に活かすことができる
- ERPと連携して情報の一元化ができる
それぞれの項目について、詳しく説明します。
トレーサビリティを実現できる
MESでデータ管理することにより、トレーサビリティが実現できます。
MESでは、製造段階で使用された部品・原材料・作業者・使用設備などのデータを収集しているため、製品がいつどのように生産されたのか詳しい過程を確認できます。
もし何か事故やクレームが起こった際でも、生産段階までさかのぼってデータを確認できるため、迅速な原因追及や対策を講じることが可能です。
設計部門と連携して製品設計に活かすことができる
蓄積されたデータを活用して、設計部門と連携して製品設計に活かせます。
MESを導入すると、製品を製造するためにかかった工数や材料の使用量などを、簡単にデータ化して蓄積できます。蓄積したデータを設計部門と共有することで、設計時から組み立てやすい形状へ仕様変更したり、不良が発生しにくい材質を選定したりするなど、製造段階での効率性を高める改善が可能です。
情報がデータ化されているので部署を超えた共有もたやすく、意思の疎通もスムーズに図れるでしょう。
ERPと連携して情報の一元化ができる
ERPとの連携によって、各部署で取り扱う情報の一元化ができます。
MESとERPの連携により、各工場や事務所・本社など、それぞれの拠点で保有されている製造進捗や生産計画などの情報が、リアルタイムで共有・一元管理できます。これにより、たとえば生産管理部門で作業計画の変更があった際も、システムの連携によって自動的に現場へ反映させられるため、間接工数の削減が可能です。
システムの連携により部署を超えた情報共有ができるため、どの部署でもリアルタイムの情報を把握できるメリットがあります。
MES導入のメリット3:属人化を防止できる
3つめのメリットとして、属人化の防止があげられます。
- 【MESの導入で属人化を防止できる理由】
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- 業務の標準化ができる
- 多能工化を実現できる
それぞれの項目について、詳しく説明します。
業務の標準化ができる
MESによって業務の標準化ができ、誰でも作業手順が確認可能となります。製造業における課題の一つに、少子高齢化や労働人口の不足により、熟練工から若手技術者への技術伝承が難しくなった点があげられます。
MESを導入することにより、そういったベテラン作業者の勘・経験・コツを作業プロセスの中に組み込んで標準化し、現場で共有が可能です。
教育にかかる時間も大幅に短縮でき、熟練者がいなくても現場作業が滞りなく進められるようになります。
多能工化を実現できる
MESの利用によって、複数の技能や技術を持った多能工化が実現できます。
MESの管理機能を活用すれば、作業者それぞれのスキルをデータとして保存し、可視化が可能です。そのデータをもとに、誰がどの業務を担当できるのか、次にどのような業務を覚えてもらうべきかの教育計画を効率的に立てられるようになり、早い段階で従業員の多能工化を実現できます。
MESを導入するときの注意点
MESの導入には、デメリット面にも注目しておくとよいでしょう。導入時に注意しておきたい点は、次のとおりです。
- 【MES導入の注意点】
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- 導入自体が目的にならないようにする
- 運用方法を事前に確認する
それぞれの項目について、詳しく説明します。
導入自体が目的にならないようにする
どのようなシステムでもいえますが、導入しただけで満足するようなことがあってはいけません。
システムツールの導入は、生産効率の向上やコスト削減に有効なのは間違いないでしょう。しかしながら、システムを導入した時点ですべて解決するわけではありません。導入の目的があいまいだとうまく活用できず、運用も定着しないことが考えられます。
システム導入するには、解決したい目的を明確にし、従業員に目的意識の共有を促すことが大切です。
運用方法を事前に確認する
運用方法を事前に確認しておくことも、システム導入時には非常に大切です。
生産現場の風土や雰囲気は、企業によって千差万別です。システム導入をよく思わず、従来の手法に固執する従業員が多い現場であれば、運用が難しくなることも予想されます。
システム導入の際は、従業員に必要性と目的を十分に理解してもらうよう、根気よく説明することが求められるでしょう。
MESの導入は実績班長がおすすめ!
MESの導入には、弊社の「実績班長」がおすすめです。実績班長は次にあげる特長を持つため、MESを効果的に運用できます。
- 【実績班長がMES導入におすすめの理由】
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- ERP・生産管理とのシームレスな連携が可能
- 100社100様に対応できるコンサルティング
- 機能ごとのライセンス形式で導入しやすい
それぞれについて、次に詳しく紹介します
ERP・生産管理とのシームレスな連携が可能
実績班長では、既存のERPと連携できるMESの選定が可能です。生産管理を導入する際に、自社で利用している生産方式・管理手法に適応させるためシステム改修が必要となり、システム構築コストが高くなる傾向が見られます。
実績班長を導入することで、現場に最適なシステムを低コストで導入できるため、導入時の大幅なコストダウンが実現できます。生産管理とERPの並行導入もできるため、全体的な納期も短縮可能です。
100社100様に対応できるコンサルティング
実績班長では、それぞれの生産現場に合わせたカスタマイズが可能です。
生産現場によって、工程管理や生産管理の手法はそれぞれ大きく違います。実績班長では、製造現場経験のあるコンサルタントと経験豊富なエンジニアが、どのようにデジタル化を進めるか全面的に支援します。
パッケージをベースとしたカスタマイズによって、それぞれの生産現場にあったMESの導入が実現可能です。
機能ごとのライセンス形式で導入しやすい
実績班長は、機能ごとにライセンスが分かれており、必要なライセンスだけを必要な時に導入することが可能です。
そのため、最優先して解決したい課題から導入を始め、その後さらにシステムをステップアップさせるといった導入方法が取れます。
不必要な部分は省いて機能を絞った導入ができるため、コスト面でも納期面でも非常に有利となるでしょう。
実績班長の導入事例:株式会社府中テンパール
ここで、MESに関する実績班長の導入事例を紹介します。
業種 | 製造業 |
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サービス内容 | 配線器具製造事業 |
- 【導入前の課題】
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- 部品の組立工場において段取り替えにかかる時間の把握
- 売り上げに対する実工数の見える化
- 【導入後の効果】
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- 作業者による作業のばらつきが把握できた
- 段取りを選任化することで作業の効率化と品質の統一化を図れた
府中テンパール株式会社では、作業工数の見える化を図るために実績班長を導入しました。
導入にあたっては、費用を抑えるためパッケージをそのまま使えるシステムに絞って検討していたところ、「自社のやりたいことと一致していた」「段階的な導入が可能だった」のがポイントとなり、実績班長の導入を決めたとのことです。
実績班長の導入で日報をこれまでの紙ベースからタブレットベースに変更し、作業工数データを収集したところ、作業者による品質と作業時間のばらつきが明確になったそうです。
データから割り出された、ボトルネックとなる特別な段取り作業を選任化したところ、作業時間の改善と品質の向上が見られました。データ化して作業員の動向を見える化したことで、大幅な業務の効率化が見られた好例といえるでしょう。
まとめ
MESの正しい導入によって、生産工程を全体的に改善することが可能となります。
しかし、ただ導入するだけではうまく機能せず、思うような効果を発揮できない可能性も否めません。MESの導入にあたっては、課題の重要度を考えて必要な部分をスモールステップで導入していくとうまくいくでしょう。自社にあった導入方法や運用に迷っている担当者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。